スーパープレミアム『悪魔が来りて笛を吹く』感想(※ネタバレ有)|封建制が崩壊する時代

悪魔が来りて笛を吹く フルート レコード エンタメ
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『獄門島』に続くNHK BSプレミアムの「金田一耕助」シリーズ第二段。『悪魔が来りて笛を吹く』の感想です。

2016年に長谷川博己主演で『獄門島』が放送されてからもうすぐ2年。ついこの間観たと思ったら意外と時間が経ってましたね。たしか『獄門島』放送時期には池松壮亮主演の短編ドラマシリーズもあって盛り上がっていた覚えがあります。

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あらすじ

悪魔が来りて笛を吹く フルート レコード

昭和22年、金田一のもとに元子爵・椿英輔の娘・美禰子が訪ねてくる。英輔は世の中をにぎわせた「天銀堂事件」の容疑者であったが、失踪ののちに死体として発見された。美禰子は、母が死んだはずの父を目撃して怯えているため、本当に生きているかどうかを砂占いで見ることになったという。金田一への依頼はその場への同席だった。

金田一は明晩その砂占いに同席するが、途中に停電。すぐに明かりはつくものの、砂占いは妙な火焔太鼓の模様を描き、屋敷の中には亡き英輔が作曲したフルート曲「悪魔が来りて笛を吹く」が響き渡る。

そんな妙なことがあった夜を皮切りに、元子爵家に同居していた元伯爵・玉虫が密室で死亡する。金田一は警部の等々力とともに事件の捜査にのりだすが、真相を探っていくうちに元子爵一家のインモラルな過去が明らかになってゆく……。

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キャスト

  • 金田一耕助 – 吉岡秀隆
  • 椿英輔 – 益岡徹
  • 椿美禰子 – 志田未来
  • 三島東太郎 – 中村蒼
  • 菊江 – 倉科カナ
  • 等々力警部 – 池田成志
  • 玉虫公丸 – 中村育二
  • 目賀重亮 – 山西惇
  • 新宮利彦 – 村上淳
  • 新宮華子 – 篠原ゆき子
  • 新宮一彦 – 中島広稀
  • 沢村刑事 – 市川知宏
  • おすみ – 橋本マナミ
  • おかみ – 山村紅葉
  • 堀井駒子 – 黒沢あすか
  • 小夜子 – 小林涼子
  • 椿秌子 – 筒井真理子
  • 慈道 – 火野正平
  • せつ子 – 倍賞美津子

感想

前回の『獄門島』での長谷川博己の演技を思い出し、今回も期待に胸を膨らませて視聴しました。

やっぱりおもしろいですね、金田一シリーズは。原作を知っていてもいなくても、逆に映画版や古いドラマ版を知っていたとしても楽しめる。誰が金田一耕助を演じるかでも違いますし、演出もそれぞれ特徴があっておもしろいですしね。

主演のキャスティングについて

『獄門島』の金田一は長谷川博己でした。この作品は、時系列としては『悪魔が来りて笛を吹く』の一年前で、金田一が復員して1年ほど経ったころですね。

長谷川版金田一はとにかく感情の起伏が激しいのが特徴で、行き詰ると頭を掻きむしるわわめくわでかなりやかましい人物です。島で起こる連続殺人事件の真相を探るのも、単純に「殺人という事象への興味」といった印象がありました。

観た人なら誰もが衝撃を受けたと思うのですが、ラストの狂気はもはや伝説ですよね。

長谷川金田一は、真犯人と対面して事件のきっかけにもなった真相を打ち明けるのですが、そこで金田一は「無駄」「無意味」を連呼しながら大爆笑。犯人の殺人がまったくの無意味に終わったどころか、さらに希望を奪うことまでぶちまけ、ショック死させてしまうんです。

原作でも真犯人はショック死するんですが、このドラマ版ではもはや金田一が殺したといってもいいのでは?と思うほど衝撃的シーンでした。

「金田一、お前にひとの心はあるのか……」と今まで私が金田一耕助だと思っていた像が崩れ去る瞬間でもありました。

それほど長谷川版金田一はいい意味でクソ野郎だったんですが、今回の『悪魔が来りて笛を吹く』では主演が吉岡秀隆になりました。

キャストを変更するということはキャラクターも大幅に変更するのかな、と思っていたらやはり違いましたね。

それも、「え、前回と同一人物であってる??????」と思うほど。

吉岡版金田一は、事件が起こって次々と人が死んでいくと「事件を未然に防げなかった」ことを嘆きます。まあ、事件前から関わっている事件なので人としては当然の感情だと思うんですが、これ多分長谷川版金田一なら爪の先ほども嘆きはしなかっただろうな~……

そして事件を追ううちにとんでもない真実(真犯人の三島が秌子と俊彦の近親相姦の末に生まれた子であり、そして三島自身も知らぬ間に異母妹と交わっていたこと)に気付くんですが、この事実を知らないまま犯行に及んだ三島に対して言い淀むという場面があります。

婚約者で自分の子まで宿していた小夜子を殺された恨みから一連の犯行に及んだ三島でしたが、ドラマ版ではおぞましい出生の秘密は知らないままだったんです。金田一は、この事実を彼に知らせて追い打ちをかけていいものかと悩むんです。

これも長谷川版金田一ではありえない性格ですね……。長谷川版金田一に比べたら吉岡版金田一は天使ですよ。(とはいいつつ、ラストで真実を知った三島の暴走を止められず目の前で秌子を刺殺するのをただ見ていただけというのは矛盾があるような気もする)

こういう作品の性質上の違いから主演キャストをかえていくスタイルはいいな~と思いました。ただまあ、『獄門島』から1年しか絶っていないのに性格変わりすぎなので、これはもう別世界の金田一として観た方がいいのかも。作品ごとにいろんな金田一を楽しみましょう。

戦後と華族

『悪魔が来りて笛を吹く』という作品とあらすじはなんとな~く知っていたんですが、じっくり観るのは今回が初めてでした。

最初はぼけ~っとテレビを眺めつつ観ていたんですが、そこで「華族」「子爵」「伯爵」なんていう言葉が飛び出してくるので「あれ?これ時代いつだっけ?」とちょっと覚醒。金田一シリーズなので昭和だし、前回が『獄門島』なので当然戦後のはず。と思ったら、ちょうど華族制度が廃止された昭和22年の設定だったんですね。

世の中に数多ある「華族」が登場する作品は大抵没落したかその一歩手前かといった印象ですが(太宰の『斜陽』なんかもそうですよね)、この作品もまさに社会の変化の中で消えゆく華族を描いています。

横溝正史の作品って封建的な村社会の独特の風習みたいなのを描くのが特徴的ですが、この作品もそんな感じ。それに『斜陽』を加えた感じです。

それでドラマを観つつ思い出していたのが、どうも設定が乙女ゲームの「蝶の毒 華の鎖」に似ている……!ということ。これは後述します。

横溝正史の金田一シリーズは、地方に残る封建的なムラ社会の古臭いしきたりとか風習とかが失われようとしている「昭和」という時代をよく描いていて、その時代設定でしかありえないシリーズだと常々思ってるんですが、この作品は最たるものでしょう。

特権階級だった「華族」の、閉鎖的な世界で起こった事件。華族のなけなしのプライド。事件の発端もまさにそこにあると思います。

旧華族とはいえ、特権階級だった一家にとってインモラルな秘密は絶対に外にもらしてはならないものだったでしょう。英輔はそのために自殺したし、三島は出生を知らされなかったことで因縁のように親と同じ罪を犯してしまうわけですから。

もともと没落する華族とか明治大正とか好きですが、横溝作品もそんな頽廃的な感じがすごく好きですね……。絶対現代劇にアレンジはできない良さがあります。

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原作との相違点

三島の出生について

原作との違いはちょいちょいあるなあという印象でした。例えば先ほども触れた「三島の出生の秘密」もそうですね。原作では三島(本名は河村治雄)はすべてを知った上で犯行に及んでいました。

これを知っているのと知らないのとではストーリーの進行にも問題があるんじゃないかと思うんです。そもそも、

小夜子が死んだ→子爵家の人間が殺した

という発想に無理はないか??と。原作ではその辺しっかりしてるんですが、改変することによって動機がやや弱まってしまったように感じたのは私だけでしょうか。

フルート曲の種明かし

ドラマでは、事件が片付いた最後に新宮一彦が英輔の作曲した「悪魔が来りて笛を吹く」を演奏するシーンがあります。これは原作では三島(河村治雄)が自分で吹いてその後に死ぬという展開なんですが、ドラマでは何もかも終わった後に持ってきたわけです。

実は三島は戦争で右手の中指と薬指を失っていて、これが鍵だったんですよね。

三島を雇った際偽名である「三島」を使うように言ったのは実は英輔。彼は三島の出生の秘密を知っていたんです。「悪魔が来りて笛を吹く」の悪魔とは三島を指していました。

自分の妻と義理の弟が犯したおぞましい罪を知った英輔は華族のプライドやら何やらから自殺を選びますが、その前にいろいろとヒントを残しています。そのひとつがフルート曲でした。この曲は、右手の中指と薬指を使わずに演奏できるよう作曲されていました。つまり、作曲の時点で「悪魔は三島だ」と示唆していた

原作では実際に三島が演奏することで右手中指と薬指を使わず演奏できることを証明するんですが、ドラマ版では一彦の演奏を見た金田一だけがひとり気付くという仕掛け。

ここで「最初これに気付いていたら事件を防げた!!!」と嘆くんですが、時すでに遅し。

最後のおまけみたいに種明かしされるスタイルにはちょっと不満もありますが、何もかも終わったつもりでいた金田一を戦慄させるという演出はよかったかなーと思います。不穏な曲なので視聴者としても印象は強いですからね。

その他、ドラマ版では姉弟の秌子と俊彦が原作では兄妹、などの違いもあります。

まとめ

以上、NHK版『悪魔が来りて笛を吹く』の感想でした。

内容にあまり関係ない話をすると、事件上特に関わりがない菊江役の倉科カナさんが抜群に演技が上手いのが印象的でした。現代人がやって現代人が観るドラマなのでどうしてもしゃべり方は現代人なんですけど、倉科カナだけまんま昭和の人だったんですよ。

たまげた。

妖艶さはもちろん、あの時代の映画に出てくる女性のしゃべり方そのもの。事件にはほぼ関わりがないけど一番感動したところかも。

あとは、須磨の宿の女中・おすみの役が橋本マナミだということをこの記事をまとめる段階で初めて知った。全然気づかなくて驚きました。

こまごまとした感想はそんな感じですかね。

ラストの感じでは次は多分『八つ墓村』!いつ放送かわからないけど今から楽しみです。次は誰が金田一を演じるんでしょうか。

エンタメドラマ小説文学
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コメント

  1. よこちん より:

    大変興味深く拝見しました。倉科カナさん、私もドンピシャでした。よろしかったら私のブログも読んで頂けたら幸いです。

    https://yokochin422.amebaownd.com/posts/5551802

    • しゃかりき より:

      コメントありがとうございます!

      レビュー読ませていただきました。やっぱり原作からの改変は気になるところですね。