ゴールデンカムイ226話「聖地」【本誌ネタバレ感想】宇佐美の愛と嫉妬

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新年一発目のゴールデンカムイです。最新話226話を読みました。

引き続き宇佐美の過去編なのですが、驚きと納得が交互にやってくる……。平太師匠がやっと終わったかと思ったらまたこわいやつ。

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前回の感想はこちら↓

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嫉妬は忠誠心の裏返し

前回に引き続き宇佐美の過去編ですが、226話の冒頭は宇佐美過去編の解説をするかのように、アイヌ犬のエピソードが入ります。

どこかのコタンらしき場所でアイヌ犬を見つけた杉元一行。ちゃんと頭巾ちゃんもついてきています(2話前?くらいに出てこなかったからちょっと心配してたよかった)。

杉元は「リュウじゃない?」と言いますが、他犬のそら似。ただのそっくりさんです。リュウは二瓶の銃のことを忘れるくらいチカパシたちに可愛がられたらいい、と語る杉元に、アシリパさんはアイヌ犬(セタ)の性格について説明します。

アイヌ犬は飼い主への忠誠心がとても強いけれど、それがひっくり返ると嫉妬深く、気性の荒さになると。

とあるアイヌ犬は飼い主にとても可愛がられていたけれど、ある日飼い主がひどく叱ると、飼い主が外出していた間に家の鶏を全部殺してしまっていたのだといいます。

白石は

「人間も同じ… 愛ゆえの…」

野田サトル「ゴールデンカムイ」226話/集英社より

とキザったらしく締めくくります……。

宇佐美の家族は円満?

宇佐美の過去編に戻ります。

道場で再会したふたり。宇佐美の家は道場から徒歩で2時間もある場所だそうですが、稽古のない日でもなんとなく来てしまうのだ、と宇佐美は言います。

彼が言うには、道場の片隅は「僕らの聖地」だから、と。

そしてさらに2年前。宇佐美の家族の描写から始まります。父母と姉、年の近い弟らしき子どもと、さらに下の赤ん坊もいる家庭です。会話を見ると、仲のよさそうな家族だな~という印象を持ちます。これがあの宇佐美の家庭?とびっくりするくらい家庭円満っぽい。両親も仲睦まじそうで、笑顔も多い家です。

宇佐美時重の親友

また驚くことに、あの宇佐美に親友がいたのです。上等兵宇佐美を見ると「こいつ絶対友達おらんだろ」と思えてくるのですが、友達、もっというと親友がいたことには本当にびっくり。

その親友・高木智春くんは人のよさそうな少年です。

どうやら鶴見中尉はこの智春くんにも慕われていたようで、彼ともお互いに「篤四郎さん」「智春くん」と呼び合う仲。鶴見中尉は「お父上は元気ですか?」と尋ねているので、親子で知った仲のようです。

東京へ旅立つ智春

実は智春くん、東京の学校へ通うことが決まっていて、時重とはもうすぐお別れ。最後にどうしても時重に勝ちたかったのに、最後の最後まで勝てなかった智春は、鶴見中尉に「道場に通うのは今日で最後だ」と打ち明けます。親友の時重にも言えなかったことでした。

鶴見中尉に背中を押してもらったのか、智春は道場の外で待つ時重に打ち明けました。時重と乱取りするのも最後なのだ、と。

しかし、時重自身はすでに知っていたようです。自分に勝ってから行きたいという智春の気持ちもわかっていたので、道場の片隅でもう一度乱取りをすることに同意しました。

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宇佐美時重の狂気

なんだなんだ、青春物語じゃないか!!!と思って読み進めていたのですが、最後の最後にひっくり返されます。

気を使って負けたくない、と言った時重。マジで負けてやる気なんかサラサラなく、ふたりの思い出を振り返りながら涙して組み合う智春をあっという間に組み敷いてしまいます。

ここまではまだ青春。

咳き込みながら「まだまだッ」とあきらめない智春に手を差し伸べたなら青春ドラマで終わったのに……。

次のページ。

宇佐美時重は憤怒と言っていい顔で、こめかみに血管を浮き上がらせ鼻にシワをよせ、歯をかみしめながら、これでもかという力を込めて智春の首を踏みつけたのです。

「え?」という智春の小さな驚きの声、わかるよ……。なんで?と思うよね。

智春は頭からつま先までビイインとのびて硬直していて、たぶん死んでしまった(まだかもしれないけど)のでしょうね……。

これにはさすがの篤四郎さんも驚きの表情。

宇佐美時重の嫉妬

なんであそこであの表情、行動?と思わなくもないのですが、ずーっと宇佐美の様子を見ていると、どうもこの人、智春をよくは思ってないな?と。

友達と思っていたかどうかはまあ置いといて(友達だと認識してはいそう)、智春と同じ程度の気持ちで親友だとは思ってなかったんじゃないかと思います。

(逆に、智春を親友として「愛していた」から「嫉妬」につながって殺した、という見方もできるかもしれないけど、ここでは多分智春はアイヌ犬のエピソードでいう鶏なのかと。)

さて、時重少年の嫉妬はどこからきたのか?思いつくものをちょっと羅列してみます。

家庭環境

宇佐美家は農家です。貧しくて困るほどの感じではありませんが、おそらく時重は長男。家を継ぐことは決まっていて、「生まれついてのさだめに縛られている」という不満はあったかもしれません。

今年で学校を卒業するという時重に、鶴見中尉は「道場へは通えるのか」と問いますが、時重は「父の野良仕事を手伝わなければならないからわからない」と答えています。

この時点で時重に「陸軍へ入る」という選択肢はなかった(というより何かを選ぶ自由すらなかった?)と思われます。

では、一方の智春はどうか。

智春は卒業後、東京の学校へ進学することが決まっています。家を出てひとりで寮に住むのだと。この時点で、なんとなく宇佐美家との生活水準の差が見えてきます。

もうちょっと勘ぐってみると、智春は道場の近くに住んでいるようなのです。おそらく学校にも道場にも近く、町だか村だかの中心、栄えているエリア、便利なところに住んでいる。時重はどうかというと、道場まで片道2時間もかかる場所に家があります。おそらく町はずれ村はずれ。随分人里離れたところに住んでいるのでしょう。

ここからもなんとなく、ふたりの差が見えてきます。智春は高等教育を受けさせてもらえるだけの家庭に生まれ、時重はそうではなかったのです。

才能があるのに

226話の中で何度か、時重は才能があると言われています。それも尊敬する篤四郎さんから。篤四郎さん曰く「今まで見た子どもたちの中で一番才能がある」んだとか。

それはお世辞なんかでなくおそらく事実でしょう。智春は一度も時重に勝てませんでした。

上の家庭環境の話につながりますが、時重は才能があるのにそれを生かすことができない、道場に通い続けられるかどうかもわからないことに、苛立ちや不満を抱いていたのではないか?そこに追い討ちをかけるように、「自分よりも才能で劣っている」智春が東京の学校へ進学するという。

智春は軍に?

ここからは勝手な想像でしかないのですが、智春が進む東京の学校というのは、陸軍幼年学校なのかな?と思いました。満13歳からなのでそのへんどうなのかちょっとわかりませんが……。

鶴見中尉が、智春に「お父上は元気ですか?」と聞くシーンがありました。鶴見中尉は智春の父のことも知っているのです。田舎って狭いので、家族ぐるみで知り合いっていうのはよくあることだと思うのですが、あえて「お父上は元気ですか?」なんて台詞を入れるのは何か意図してると思うじゃないですか。

智春の父も軍人だったりするのかもしれない、と思ったわけです。

で、時重は自分の尊敬する大好きな篤四郎さんと同じ陸軍に進もうという智春が、恨めしくてたまらなかったのではないか、と。

いろいろ総合してみると、時重が突然とち狂ってブチ切れたのではないのだとわかります。彼は篤四郎さんとしゃべる智春に笑顔を向けてはいたけど何か押し殺してそうな顔だったし、なんか淡泊なんですよね。

だって智春、ことごとく時重と篤四郎さんの会話邪魔するし。

こんなふうにして時重は嫉妬を身の内で増幅させ、あのタイミングですべてをぶちまけたんだなあ……と私は思いました。

自分はこんなにイライラしてるのに、最後に勝たせてもらってそれを青春の1ページに飾ろうとでも言いたげな智春がマジでむかついたのだろうな……。

鶴見中尉は見つけた

225話にて。鶴見中尉は、訓練された兵士が戦地ではわざと弾をはずす、発砲するふりをする、とこぼしていましたね。訓練された兵士であっても、いざという時は良心とか理性とかが邪魔してひるんでしまうと。

鶴見中尉はここで見つけていたのです。有事に遠慮なく全力で攻撃できる逸材、完璧な兵士を。

そして時重が智春を「蹴る」ところ、225話の「馬に蹴られるから危ないよ~」ってシーンはもしかしたらここにつながってるんでしょうかね?

戦争へ向かう前に友人を全力で攻撃した少年を見つけていた鶴見中尉は、2年後の戦後に再びここに戻ってきて、逸材を連れていくというわけですね。

226話冒頭の再会シーン、宇佐美が「僕らの聖地」と表現した意味がわかりました。腑に落ちた。宇佐美にとっては開花した場所で、鶴見中尉にとっては逸材を発見した場所だったわけだ。ガッテンガッテン。

で、きっとこのあと時重くんにとって輝かしい喜ばしい何かが起こるんだろうな。

犬が叱られる

「叱られる」ってなんか宇佐美のトリガーなんでしょうね。鶴見中尉に叱られそうなときはひどく喜んでるし。

アイヌ犬は叱られた後、鶏をズタズタに殺してしまった。

このあと、時重は篤四郎さんに叱られるのかな。親に愛されて円満な家庭で育った子がひどく叱られて、なんか快感を覚えて……って感じなのかな。

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コメント

  1. ぽん酢 より:

    当時は兵役あるので宇佐美も軍隊には行くことになるでしょうが、
    智春君がもし陸幼に入る予定なら、再会したとしても立場は違うことになるでしょうね。
    そうでなくても学校に行ける智春君と宇佐美とはすでに立場がかなり違う。

    でも、それだけじゃないんでしょうね。
    とりあえず鶴見さんとの間になにかと入ってくる智春君はウザかった。そんな単純な理由が本質なのかなあ…と思います。

    久しぶりに(?)ゾッとした回でしたねー…

    • しゃかりき より:

      コメントありがとうございます。
      いつからいつまでだったかは覚えていませんが、確か家を継ぐ立場の者(長男)は徴兵を免除されたので、宇佐美は自発的に兵士になりたいと言い出さない限りは軍に入らなかったのかなぁと思ったりしました。

      ほんとに、ゾッとした回でしたね……
      智春くんは邪魔をしてるつもりはなかったでしょうし、むしろ「篤四郎さん」は親友の時重の興味を引くための材料くらいの認識だったんじゃないかなぁ。かわいそうに
      あのわけわからん宇佐美だったのに、「青春?知るかボケ」という感じとか、智春に対する感情がちゃんと描写されてて面白かったです。それにしてもこわいけど……

  2. シマカゼ より:

    ツイッターにて見かけた鋭い推測を

    智春君の高木、という苗字の軍人が『海軍』に実際3人いたようです(名前がヒットしたそう、ということはそれなりの階級でしょう)

    宇佐美が彼をあんな風にしなければ(現時点では生死不詳ですが)、鶴見は高木親子を通して海軍にコネクションを持つつもりだったのでは?
    つまり鯉登誘拐事件は宇佐美がいなければ起こらなかった可能性あり、という推測です
    個人的には目からウロコでした

    • しゃかりき より:

      コメントありがとうございます。
      なるほど!
      地元で海軍とつながりを持っていたなら、もしかしたら計画はもっと早く進んでたかもしれませんね。なにしろ陸軍海軍の関係ですから……
      鯉登父も最初警戒心強かったですし、鶴見中尉もあの壮大な誘拐劇は骨が折れたでしょう。

      ところで、やっぱり鶴見中尉としては智春>時重 だったし、時重もそれを感じ取っていたから嫉妬したんでしょうね。
      智春くんが死んだことで計画を崩されてしまったかもしれませんが、それで「完璧な兵士」を得られたのだから……どっこいどっこいかも笑