今日、発売日から一日遅れて『王国の子』最終巻である第9巻を読みました。(地方は発売が遅れるから困る……)
何年も前から気になっていた作品で、去年1巻を試し読みして勢いのままにkindleで8巻まで買っちゃったんです。
で、満足してひと息ついたらちょっと後悔。
本当に好きな作品ってやっぱり紙で手元に揃えたいんですよね。読むだけならもちろん電子でもいいけど、紙媒体の価値って情報だけじゃない。紙の質感とか手触りとか、装丁のこだわりなんかも実際手にしてみないとわからないですからね。
最終巻は単行本をちゃんと買いましたよ!
さて、では以下からネタバレ含む作品の感想です。
エリザベスの即位、そして結末
女王であったエリザベスの異母姉・メアリが病で亡くなり、次の王座はエリザベスのものになりました。
最終巻では、正式な即位までの間に隣国の王家の姫でありゼントレンの王位継承権も持つメアリから命を狙われることとなり、そこがひとつの山場となっています。
この間、エリザベスはすでに次の王に定まっていたので、ゼントレン王家の影武者を管理してきた影の存在であるフランシス・ウォルシンガムから影武者の末路を初めて知らされます。
エリザベスが王として、今後影武者をどう扱っていくか。
その結論を出しているというのも作品全体を通してのひとつの山場ですね。
影武者・ロバートの行く末は?
王が亡くなった場合、その影武者はウォルシンガムによって闇に葬られるというのがこれまでのしきたりでした。
作品に登場してきたこれまでの影武者たちも例外なく消されています。
王は即位と同時にその事実を知らされているんですが、王としての責任と影武者に対する罪悪感を感じる者もいれば、いいように利用できると考える者もいましたね。
エリザベスはどうかというと、やはりロバートを生かす道を選ぶんです。
エリザベスにとってロバートとは影武者であるだけでなく、たった一人の親友であり、盟友であり、おそらく生涯をかけて愛する存在です。
エリザベスは影武者制度を自分の代で終わらせることを宣言し、ロバートとフランシスを枢密院委員に決めました。
エリザベスは代々受け継がれてきた「影武者制度」にただ嘆くのではなく、疑問を持ち、変えることを選んだんです。
こうしてロバートは、もしエリザベスが先に亡くなっても生きることができる。
戴冠式、最後の影武者の役目
そして迎えた戴冠式。
ここまでにエリザベスは数度メアリからの刺客に命を狙われています。
影武者制度を廃止したのでもうロバートがエリザベスに成り代わる必要はないんですが、ロバートはこの戴冠式後の街頭でのパレードを最後の役目、けじめとして「やらせてほしい」と自ら申し出ました。
刺客も当然この機会を逃しません。街頭パレードなんて命を狙う格好の場ですからね。
馬車にはエリザベスに成り代わったロバートを真ん中に、左右に侍女に扮したエリザベスと侍女のケイトが同乗していました。
先に刺客に気付いたのはエリザベス。
ここで彼女は一瞬の間に過去自分が言ったことを思い出しています。
「賢くなりなさいってお義母様は仰ったわ
私もそうありたい でも
私にできるかしら
いつか本当に心の底から愛しい人が現れた時
冷静でなんていられるかしら」
びっけ『王国の子』第9巻 第34話より
ここまで思い出し、彼女はそんなの無理だ、とやはりそう悟ります。
刺客の矢を受けたのは侍女に扮したエリザベスでした。
王の命を守るために存在する影武者が、逆に王に守られる形になってしまった。すごい皮肉ですけど、エリザベスにとってきっとそんなことはこの場では関係ないんですよ。
なんとなくこうなるな、とは思っていたけど切ないシーンです。
女王の最期、そして?
市民の目の前で真の王・エリザベスは矢にいられ、その後しばらくして亡くなってしまいました。
しかし、エリザベスの側近である限られた数人以外はそれを知りません。
誰もがこの状況に絶望するなか、最初に結論を出したのは側近の一人ウィリアム・セシルです。
ウィリアムが真っ先に、
「まだお前がいる」
と影武者のロバートによる統治を提案します。
エリザベスが信頼した側近のなかで誰よりも受け入れられなかったのはロバートです。
そんなときに「永遠にエリザベスとして国を統治しろ」と言われ、彼はひっそりと城を抜け出すのですが、そこに現れるのがフランシスです。
フランシスはロバートに、今までの影武者たちが葬られている墓地を案内します。
ここでロバートは「自分をこの場で消してくれ」と泣きながら懇願するのですが、フランシスは
「影武者の監視の任は解かれた」
と断るんです。
「それにあなたももう王の影武者ではない
私たちは今
自分のしたいことを自分で決められる
エリザベスがそうしてくれた」
びっけ『王国の子』第9巻 第34話より
ここまで連れてきておいてなんだよ、と思いますが、このシーンを見るとフランシスはロバートの肩に手をかけて、彼の気持ちに寄り添ってるんですよ。
今まで影武者を監視して場合によっては殺さなければならない立場だったフランシスがですよ。
立場的にフランシスは影武者や王とは一線を引いていなければならなかったんですが、この場ではもうその必要がない。
フランシスを、ロバートに寄り添える人物にしたのがエリザベスなんです。
ここでロバートは、エリザベスが最期に、
「私たちは皆この王国の子」
と言ったのを思い出します。
王、貴族、平民……身分ではなく、エリザベスは一律に皆がこの王国の子だといった。
彼女がその考えのもとに女王になろうとし、その始まりが「影武者制度の廃止」だったんですね。
エリザベスを失ったことに絶望していたロバートの、転機となったシーンだと思います。
名君として
エリザベスとしてこのまま王をやっていくと決意したロバートは、最期のときまで名君でした。
最初に載せているツイートでもちょっと触れていますが、この作品では“エリザベス女王”の長い統治の時代は描かれません。
でも、それがどれだけ素晴らしい時代だったかは、即位時のロバートの決意が物語っているのだと思います。
ハッピーエンド
作品の最後、エリザベス女王として生きたロバートの最期をもって完結しました。
最期にロバートが想うのはやっぱりエリザベスのことですよ。
彼は意識もおぼろげな中でエリザベスを見、二人はやっと再会します。
史実に沿っているのでそれになぞらえて言いますが、エリザベス女王の統治って長いんですよね、すごく。ロバートもそれだけ役目を全うしたと思われます。
ほんとに、最後はおつかれさまと言いたい。
片方が亡くなるエンドって悲しいけど、これはハッピーエンドと言っていいんじゃないかと思います。
歴史の物語はおもしろい!
この作品は実在のイングランド女王・エリザベスを題材としていて、彼女の人生を史実に沿った形で描いていることに違いはないのですが、国の名前はオリジナルだし、「影武者」の存在も作品オリジナルのフィクションです。
だからこんなの嘘っぱちだといってしまうのは簡単なのですが、歴史を物語にするってどこかオリジナリティを出すところに意味があると思います。
大河ドラマなどもそういうところがありますよね。事実としてあるものにどう肉付けをしていくか、それを見る人は楽しんでるんですよ。
実際に「ベルばら」でフランス革命勉強したよ、という人もいるくらい。あれもフィクションですけど、歴史の分野に興味をもつならなんでもいいですよね。
間口が広がるのはいいことだな~と思います。
『王国の子』もフィクションですが、エリザベス女王をあまり知らない人が知るきっかけ・興味をもつきっかけになるいい題材です。
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