9月19日に発売された『ゴールデンカムイ』15巻。一日遅れてアニメDVD同梱版を手に入れました。
『ゴールデンカムイ』の単行本は毎回どこが加筆修正されたかが注目されます。私も本誌派なので、本誌掲載時とどこが違うのかを探すのもひとつの楽しみになっています。
15巻は表紙からもわかるように、一番の見どころは月島軍曹についてだと思っています。
もちろん、スチェンカ、バーニャあたりも大事なのですが……
ということで、月島軍曹に関する考察を中心に加筆部分を挙げながらまとめてみました。
加筆された箇所
加筆箇所についてですが、私は本誌派とはいえヤンジャンアプリで読んでいるので、実は細かいところまでのチェックはできていません。本誌で追い始めたのも4月の100話無料がきっかけです。
細かいところが知りたいよ~という方はツイッターなどで検索してみるとふせったーでまとめている情報があるので、そちらをチェックしてみてください。
私は気になった加筆修正箇所をピックアップしてみます。
マタギの胸毛
はい、まずこれです。
スチェンカ回の谷垣の胸毛が増毛されています。これはもう公式で作者が公開していますね。マタギの毛づくろい……。
単行本発売前になるとだいたいマタギの毛づくろいが行われている。どこまで作者に愛されているのでしょう(笑)
ゴールデンカムイ15巻単行本作業中。源次郎の毛づくろいをしております。なんでこんな大きなコマなのに胸毛を描き忘れたのか。愛が足りないのだと自分を責めております。 pic.twitter.com/pAaV4T6cky
— 野田サトル (@satorunoda) August 10, 2018
谷垣関連では、バーニャ回に全裸でクズリを撃つシーンがある(ここは初めて見たときいろんな意味でおったまげた)のですが、ここも表情が修正されているそうです。
ネタはここまでにしておきましょう。
149話 月島軍曹のおっかないセリフ
149話「いご草」の冒頭、スチェンカで戦った岩息(刺青の囚人)と別れるシーンがあるのですが、冒頭2ページのほとんどが加筆されています。
ここで月島軍曹はロシア語で「日本に戻ってきたら頭をブチ抜いて殺す」と言うんですよ。ロシア語がわからない岩息はなんて言ったんだと聞き返すんですが、改めて日本語ですごむ軍曹……。「しばらく日本には帰れないから死ぬ気でロシア語を勉強しろ」と。
あとで解説しますが、149話は月島軍曹の過去回で、彼の人格にフォーカスされる回。ここまでのフレップやらバーニャやらのコメディが吹っ飛ぶ内容です。
杉元と寅次、ソリから見る軍曹
150話「遺骨」。
日露戦争中の過去シーンですが、ここで鶴見中尉の前頭葉が吹っ飛びます。月島軍曹も下腹部を負傷して担架で運ばれます。
極寒の地なのでソリがなければ野戦病院まで運べません。
ソリを譲ってくれたのが杉元だったんです。寅次は両足を失って瀕死の状態ですが、「助かるやつを優先してくれと言っているから」と。
本誌ではその場に残る杉元と寅次が1コマだけ描かれていましたが、加筆されて1ページまるまる2コマを使って描かれています。ソリに乗って運ばれる軍曹が、だんだん小さくなる二人を見ている視点で。
「そして死んでいった者たちのためにも」
鶴見中尉が「いご草ちゃん」にかかわる嘘の情報を伝えていたこと。これがきっかけで月島軍曹は戦場で詰め寄ったのですが、疑っているにも関わらず砲撃から鶴見中尉を守ろうとした。
中尉はいご草ちゃんについてだました理由を説明したあと、そういう月島だから「信頼できるのはお前だけだ」と伝えます。
本誌では、「鶴見中尉に救われた命ですから残りはあなたのために使うつもりです」とだけ言っているのですが、この後にコマが追加され、
「そして死んでいった者たちのためにも」と続きます。
巻末6ページ丸々加筆
驚いたのがこの最後の6ページもの追加です。
小樽に帰った第七師団。月島軍曹は夜、鶴見中尉に渡されていた「いご草ちゃんのものと思われる髪」を海へ捨てます。
そして鶴見中尉は負傷した頭部を覆うホーロー製の仮面をつける。ここで現在の姿になるのです。
月島軍曹の過去
149話「いご草」、150話「遺骨」では、ほぼ過去の月島軍曹の視点で進みます。
「いご草」
『ゴールデンカムイ』の過去回ではおなじみですが、月島軍曹も過去を鶴見中尉に語るスタイルで進みます。
新潟佐渡出身の月島軍曹。幼馴染の女の子にくせっ毛で「いご草」(※新潟の名産の海藻)に似ているから「いご草、いご草」とからかわれる子がいた。月島自身も父親が人殺しのうわさがある人物で、本人も悪たれだったので子供たちから嫌われていた。
月島のことを本名で「基(はじめ)ちゃん」と呼ぶのは彼女だけで、彼女の髪を好きだといったのも月島だけだった。
その後入隊した月島は、日清戦争が終わったら駆け落ちしようといって別れるのですが、突然彼女からの連絡が途絶えてしまった。戦後佐渡へ帰ってみると島の人間は「お前が戦死したと聞いた」という。そして彼女は海辺に履物を残して10日も行方不明だと。彼女は戦死の知らせを聞いて身投げしたと。
月島は必死に海を探すが、いご草を見るたびに彼女では……とゾッとする。ふと、「誰が戦死のデマを流したのか」と考えます。
その犯人は月島の父親で、いままで溜まっていた怒りがあふれ出した月島は父を殺害。それが理由で死刑囚となっていたのです。
これを聞いた鶴見は佐渡へ渡ります。そして再度月島に面会して「えご草ちゃんは自殺しとらんかったぞ」(新潟本土の人はえご草という)と伝えます。
鶴見が言うには、佐渡へ来た三菱の幹部が彼女を気に入り息子の嫁にと希望した。彼女は月島のことしか頭にないため断るが、両親は願ってもない玉の輿を逃してなるものかと動く。そして月島の父に金を渡してデマを流させ、娘の死を偽装して東京へ嫁がせた、と。
月島が生きていることを知らない彼女に会った鶴見は、「基ちゃんの骨と埋めてほしい」と言って渡された髪を持ってこの話を伝えます。
さらに鶴見は「今度戦争が始まるから自分の部下になれ」と誘うんですよね。死刑囚だけど、ロシア語が話せる通訳が足りてないからロシア語が堪能(嘘)なお前を部下にすると。当然月島は「ロシア語なんて話せない」とうろたえるのですが、鶴見は「ならば死んだ気になって勉強しろ」と。無茶苦茶ですね……。
149話の冒頭2ページの加筆箇所、ここにつながるんですよ。金塊を狙う人間から逃れるためにロシアへ向かう岩息に、「ロシア語を死ぬ気で勉強しろ」とすごんでましたよね。日本に帰ったら殺されて皮を剝がれるだけ。行きたければロシアの地で生きる術を身に着けろということ。死刑囚だった月島が生きるために死ぬ気でロシア語を勉強したように。
先遣隊が樺太に入ってから月島軍曹がペラペラロシア語を話すのには驚きましたが、こんな過去があったんですよ。最初ネタっぽかったのにとんでもない過去がひそんでた……。
「遺骨」
150話です。この回も月島軍曹の過去回ですが、鶴見回でもある。タイトルの「遺骨」とは、戦場で死んだ兵たちの遺骨です。
149話の最後、日露戦争、奉天の地で佐渡出身の兵に会った月島。佐渡で月島が死刑囚になったのは有名なので、彼もそのことを知っていました。その彼の口から、「月島が捕まったあとで彼女の遺体が見つかった」と知らされるのです。しかも月島の父の家の軒下で。
鶴見中尉の話は嘘だったのかと激昂する月島。当然です。
鶴見中尉は「死刑を受け入れていた月島を生に向けるために嘘をついた」と説明しますが、ここで彼は砲撃で吹っ飛ばされます。
生還したあと、改めて聞かされた話はこうでした。
月島の死刑を撤回して部下にするには、ロシア語だけでは弱かった。そのため、「父親は殺されても仕方ない人間だった」という事実が必要だった。そこで偽の遺体を家の下に埋め、島中の人が見ている中で掘り起こした。月島を「婚約者を父に殺された哀れな男」にするために。彼女は東京で嫁いで無事に生きていると説明します。
ここまでくると何が本当なのかわからなくなりますね。実はこれも嘘で、本当はもう海に身を投げて死んでいるのかもしれない。こればかりは今ある情報からでは確定できないので、あれこれ考えても仕方ないように思います。
重要なのは、この話を聞いた月島が「真相なんてどうでもいい」という心境にあるということ。あらためて「彼女は生きている」と説明されても、安心するでも疑うでもなく、ただ光のない目で「ああ……そうですか」とつぶやいているんです。
この後に「残りの人生はあなたのために使う」「そして死んだ者たちのために」と続くんですよ。ここで月島軍曹を生へ突き動かすものは、もはや「いご草ちゃん」ではないことがわかります。
じゃあ、なぜ鶴見中尉について生きることにしたのか?
その理由はここまでのシーンで確認することができます。
まず、鶴見中尉が戦い続ける理由は「満州の地に兵の遺骨が眠っているから」でしょう。だから満州の領土を日本の領土として守るために戦っているんです。戦っていった者には、せめて「日本の土」で眠ってほしいから。
月島軍曹もその信念を知っています。そんな中尉だからこそ尊敬し、部下として忠義を尽くすんです。この時点で、月島自身も鶴見中尉の信念のために働いている。
それを補強するのが今回の加筆箇所ではないかと思います。
野戦病院へ運ばれる月島が、小さくなっていく杉元と寅次の姿を見つめるコマです。寅次は見ただけでもうすぐ死んでしまうのがわかる姿です。月島軍曹は「彼もこの地に骨を埋めるのだろう」と思ったはずです。
1ページ2コマを使って描かれた杉元と寅次の姿は本当に切ない。もう生きているかどうかもわからない寅次と、寅次の頭を抱きしめるように抱える杉元。表情は見えませんが、15巻分の内容の蓄積でもう読者には痛いほど気持ちが伝わってきます。
この地で死んでいく寅次。
「そして死んでいった者たちのためにも」という加筆されたセリフと合わせて、月島軍曹の決意を強調するものになっています。
もう月島を生かすのはいご草ちゃんではないんですよ。
ちょっとここで気になるのが、鶴見中尉の思惑です。月島に語って聞かせたシーンでは、テントの外に男の姿(いご草ちゃんの遺体が見つかったといった兵)。月島が目を伏せた瞬間に悪そうな含みのある顔をする鶴見中尉が描かれています。
月島軍曹視点で進みますが、ここだけは第三者の目線(小説でいう全能の神視点)で描かれています。読者としては、この説明までが鶴見中尉の作戦通りなんだろうな、なんかまただましてるんだろうな、あ~あ……と思うのですが、さっきから言っているように月島にしてみればもうそんなのどうでもいい。
鶴見中尉としては「どこかで生きてるいご草ちゃんのために頑張れ」ということなのかもしれないし、はたまた「私がお前を生かすためにここまでしてやったとわかってくれたか。しめしめ働いてくれよ」ということなのかもしれない。
でももう月島軍曹は鶴見中尉の信念を尊敬し、死んだ兵たちのために生きようとしています。最後の加筆6ページに描かれた、いご草ちゃんの髪を海に捨てるシーンもその強調として作用しています。
というわけで、150話「遺骨」は鶴見と月島双方の話でした。
仮面をつける鶴見中尉はめちゃくちゃ野望に満ちていてこわいです。が、夜中に部下たちに見守られる中で仮面をつける中尉は光の中にいて、やっぱり崇拝の対象なんだなあと思う。
悪魔のようであり、聖母としても描かれる。中尉はこの二面性が魅力ですね。杉元一派からしたら敵(今は同じ陣営ですが)だけど、彼は彼の信ずる精神のもとに正義を貫いているんです。
150話以降鶴見中尉からは遠ざかる内容が続きますが、今後どうなっていくのか。
杉元陣営ではアシリパさんが神として描かれますが、中尉は聖母マリアです。この対称構造もまだまだ気になるところです。
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まとめ
『ゴールデンカムイ』は本誌で追っていて、ツイッターでもいろんな考察を見かけます。金カムファンの考察が深い……。あまり深みにはまるとなんだか踊らされているようなので、1話1話深く考えないようにしています。
単行本の表紙がタロットカードを暗示しているというのもよく言われてますね。ちょっと考えすぎじゃ?とも思いますが。
ただ明らかなモチーフ「最後の晩餐」「聖母子像」などのパロディはしっかり意味をもってそうですね。
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