映画「1917 命をかけた伝令」【ネタバレ感想】これで戦争が終わるわけじゃない、ほんの一瞬の出来事

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先月「1917 命をかけた伝令」を観に行きました。公開直後くらいですかね。重苦しいのがわかっている映画なのに観に行くのってなかなかしんどいですが(ジョーカーとか、ダンケルクとかもそう)、でもやめられない。

正直1917はコリン・ファース、マーク・ストロング、ベネディクト・カンバーバッチ目当てに行ったところもありましたが、主人公のジョン・マッケイにはまって帰ってきました。ジョン・マッケイ見たさにもう一回観たいな~という気持ちもあります。

箇条書き程度に、レビューをまとめてみます。

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スコフィールドの人物像

主人公のスコフィールドは、一緒に伝令をすることになったブレイクとは同じ上等兵ですが、戦場での経験は彼よりも多い設定です。「ティプヴァルの戦い」を経験していて、戦地で負傷したこともある。

20代前半の設定なのに、達観した感じなのはそのせいでしょうか。

一方、ブレイクは19歳で、戦争経験もほとんどない。故郷からの手紙の内容に喜んだり、道中は笑える話をしたり。劇中で家族の情報が出てくるところも、スコフィールドとは対照的です。ブレイクには、兄が所属する部隊を救うという動機があります。兄を救うためならば、どこに敵が潜んでいるともわからない死地を走ることすら厭わない。

でもスコフィールドには明確な動機はありません。もともと、エリンモア将軍(コリン・ファース)は、兄を助けたいと思うブレイクの気持ちを利用しようと彼を選抜し、もうひとりは誰でもよかった。スコフィールドを選んだのは、たまたま近くに寝転んでいたからでしょうか。

偶然で選ばれたスコフィールドは道中、「どうして自分を選んだんだ」と恨み言を口にしています。そりゃ誰が好き好んで伝令なんかしたいか……。恨む気持ちもわかります。

それでも、スコフィールドは伝令の仕事を最後までやってのけました。彼を選んだブレイクが途中で死んでしまっても。

ブレイクのモチベーションはわかるけれど、スコフィールドのモチベーションは何だったんでしょう。

彼の役目は伝令で1600人の仲間を救うことでしたが、これは第一次世界大戦の全体からすればなんてことない小さな出来事です。「ダンケルク」のダイナモ作戦も、勝った・負けたを左右するものではありませんでしたが、のちに「ダンケルク・スピリット」といわれるように、あの作戦が成功したことはイギリス国民を勇気づけました。

でも1917で描かれる作戦は、イギリス全土の国民の精神を動かすようなものではありません。

結果的にスコフィールドは間に合ったので、この作戦でいい働きをしたよ、という証しは残るかもしれませんが、スコフィールドは評価ほしさに働いたわけではありません。

命がけの作戦だろうが何だろうが、長い戦争のなかのよくある一コマ。日常を生きた、という感じでしょうか。日常というにはちょっと危険すぎる出来事ですが。

彼はヒロイズムで最後まで走ったのではないように思います。ただ、ブレイクの兄に、弟の最期を知らせる義務がある。約束したから。これは大きな動機のひとつだったでしょうね。

スコフィールドが主人公で、全編通してカメラは彼を追い続けてるのに、どうにもスコフィールドの内面はあまり出てきません。20代前半なのに、達観したおじいちゃんみたい。

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このままぼーっとしていたい、という瞬間

使命を帯びたスコフィールドにも、「あー、このまま時間が止まればいいのに」「全部投げ出してしまいたい」みたいな気持ちはあったと思います。思考がそっちに流されかけて、ふとした瞬間現実にひきもどされ「イカンイカン、急げ!」となるシーンは何度かありました。

鐘の音

ドイツ軍に占拠されたエクーストの町で、息をひそめて隠れていたフランス人女性とのシーンです。赤ん坊に歌を聞かせながら、「このままこうしていたい」という気持ちになったでしょう。私だって観ていてそう思った。

スコフィールドを現実に引き戻したのは、町の教会かなにかの鐘の音です。これで急がなければならないことを思い出し、女性の制止を振り切ってまた表に出ていったのです。

川に落ちる花びら

ドイツ兵に終われながらエクーストを命からがら出たスコフィールドは、川に落ちて滝つぼに流れ、しばし濁流のなかを漂います。

このとき、頭上では花びらが舞っていて、彼の視界に入りました。死体がゴロゴロ浮かぶ川にひらひら舞う花びらのシーンはすごく印象的でしたね。

ちょっと鑑賞から時間が経ちすぎて、花びらが何の花のものだったか覚えていないのですが……。スコフィールドは前日の日中、ブレイクと歩きながら、チェリーの花を見ています。ブレイクは故郷の家でチェリーを栽培していて、よく手伝ったから品種までよくわかるのだ、と話していました。

スコフィールドはそれを思いだしたのではないでしょうか。命からがら逃げて川に落ちて、もうしばららくぼーっと漂っていたい気持ちはあっただろうと思いますが、花びらを見た途端泳いで岸に上がろうとするのです。

河岸には、腐敗してぶよぶよになった死体が重なり、彼はそれを乗り越え、時には踏みつぶし、手で掻き分けながら進まなければなりませんでした。ぞっとする体験です。

スミス大尉の連隊

これはちょっと違うんですが、緊張が続く伝令の道中、ひと息つけたという意味では、スミス大尉の連隊と一時行動を共にしたところも挙げられる気がします。

スコフィールドとブレイクは、不時着したドイツ軍のパイロットを、善意から助けました。ところが、その善意があだとなってブレイクは死んでしまいます。スコフィールドがスミス大尉と会ったのはちょうどそのときでした。

伝令の仲間を失ったスコフィールドは、絶望のどん底。そこに手を差し伸べたスミス大尉は最高に神々しかった。

スミス大尉の連隊の若い兵たちは、スコフィールドが置かれている立場とは全然違っていて、冗談を言ったり作業をサボってみたり、ただの学生みたいな感じ。先ほどブレイクを失ったばかりのスコフィールドの横で、上官のものまねをして笑っているのです。

こんなときにいい気なもんだな、という気持ちももちろんあるのですが、戦地を思わせないやりとりは救いでもありました。

戦争映画に登場する女性

エクーストで出会ったフランス人女性については先にちょっと触れましたが、彼女は出ていこうとするスコフィールドを止めています。言葉も通じない外国の見ず知らずの男を引き留めようとするなんて、ちょっと「?」という感じでしたが、誰でもいいから危険じゃない人間にそばにいてほしいほど不安だったのでしょうか。

それにしても、スコフィールドに好意的な彼女の存在はちょっとどうなの?と思いました。

あのシーンはスコフィールドにとって「つかの間の癒しの時間」として描かれたのは確かです。戦争映画に登場する女性ってどうしてもそういう役割でしか描かれませんが、別になくてもよかったんじゃない?と思ったシーンです。

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冒頭とラスト、円環する構造

川から上がったスコフィールドは、ほどなくしてデヴォンシャー連隊第2大隊に追いつきます。道中に出会ったスミス大尉の助言どおり、第三者がいる場所でマッケンジー大佐に手紙を渡し、なんとか作戦中止を成し遂げました。

マッケンジー大佐、よく見ると左目のあたりに向こう傷があり、血気盛んで突っ走りやすい性格なんだなあとわかる風貌でした。

その後、もうひとつの役目としてブレイクの兄に弟の最期を告げると、スコフィールドはようやくひと息つくのです。

救護テントから少し離れた木に寄りかかり、親しい人と思しき写真を取り出して見るスコフィールド。作戦の前後で、気持ちにはどういう変化があったのでしょうか。

ところで、このラストシーンは冒頭と重なっています。木に寄りかかっての午睡。伝令中の緊張が解け、弛緩するところ。弛緩→緊張→弛緩……となり、円環していることがわかります。

おそらくこのあとも、スコフィールドやそれ以外の兵士たちは同じように緊張と弛緩を行ったり来たりしながら戦地で生きていくんだろう、と思わせるエンディングでした。

全編ワンカットではないけど、ワンカット風である意味

全編ワンカット撮影(厳密には違う)で注目されたこの映画、カットひとつひとつを違和感なくつないで、観客が伝令ふたりと同じ場所にいるかのような気持ちで2時間あまりを過ごせるような、没入感のある映画でした。

なんだ、全編ワンカットじゃないじゃん、とは思うのですが、ワンカットに見えることに意味があるのだろうと思います。冒頭とラストが円のようにつながる演出にしてもそうです。カットで区切ってしまうと、その間に何があったのかわからない。ワンカット風の撮影で最後まで見届けられると、きれいに円環する。

ドキュメンタリーみたいでおもしろかったです。

また、監督のサム・メンデスはもともと演劇出身の人。ワンカット撮影の手法はカットがかからずライブ感のある演劇っぽい感じもありますよね。過去の監督作は見たことがないんですが、パンフレットで経歴を見てなるほど~と思ったところです。

今回、目当てだった3人の中ではマーク・ストロングがめちゃくちゃよかった。天使でした。あと、主人公のジョージ・マッケイ。これからも追っていきたい。

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