ゴールデンカムイ21巻、アニメイトでステッカーもゲットしてきました。
今回もすごい加筆でした。加筆だけでなく重要なセリフの修正箇所もあり、本誌とは結構印象が変わる部分も多かったです。
大体の感想や考察は本誌リアルタイムの感想としてまとめていますので、ここでは主に加筆や変更点についてまとめます。
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前回の感想はこちら↓
杉元のセリフ変更。アシリパさんの中に自分の一部を見出す
ゴールデンカムイ 21 (ヤングジャンプコミックス)
21巻の前半部分に大きな変更はありません。
気になったのは、203話の杉元のセリフです。
「アシリパさんが見ている世界に俺もいると思うと なにか綺麗なものになった気がして救われる」
野田サトル「ゴールデンカムイ」203話/集英社より
本誌掲載時は↑のセリフでした。
このときは、杉元自身はすでに多くの人を殺してきて汚れ切っているから、穢れていないきれいなままのアシリパさんのそばにいると自分まで浄化され、きれいなものになる気がしている、と解釈できました。
ずいぶん受け身ですよね。
これが、21巻ではこう変更されています。
「アシリパさんを見てると 俺のなかにも子供の頃に確かにあったような きれいな部分がまだ残っているんじゃないかって思えて 救われる」
野田サトル「ゴールデンカムイ」21巻/集英社より
変更によって、杉元はアシリパさんの中に過去の自分のきれいな部分を見出している、と解釈が変わります。
穢れ切ったつもりでいたけど、自分もアシリパさんのように、血で汚れていないきれいな子供時代があった。もしかしたら、今もそのころのきれいな部分が残っているんじゃないか。
アシリパさんを神聖視してただただ浄化を求めるような受け身の考え方とは変わりましたね。本誌掲載時の感想では、私は確か「杉元はアシリパさんを神聖視しすぎ」だと言いました。変更前のセリフでは、杉元はアシリパさんを生身の人間として見ていないかのようにもとれます。
でも実際にはそうじゃない。
杉元はもともと自分より一回りも年下の少女に敬称をつけて「アシリパさん」と呼び、ひとりの人として尊重していることから、自分と同等、もしくはそれ以上の存在として見ているようにもとれるのですが、一方ではアシリパさんを「子供」として見過ぎているところもある。
おそらく杉元は気づいていないであろうアシリパさんの恋心、尾形はすぐさま嗅ぎ取ってアシリパさんを動揺させる材料に使っていました。そういうところ、尾形はアシリパさんを何もわからない小さな子供としてではなく、ひとりの女性として捉えているんですよね。
今回の21巻、211話では白石が杉元に怒る場面がありますが、なぜ怒ったかというと杉元がアシリパさんの意見を聞くこともなく自分の考えだけでアシリパさんのこれからを決めようとしているからです。白石は樺太の旅を通して、アシリパさんがひとりの人間としていろんなことを知り、成長したことを知っています。彼女の意見を尊重すべきだ、と考えているのです。
尾形や白石がアシリパさんを「自分の考えをしっかりと持った人」として接する一方、杉元は未だ彼女を幼い少女で「庇護すべき存在」として捉えていることがわかります。
エノノカちゃんをアシリパさんと認識して咄嗟に守った一件、あれもずっと引っかかっているのですが、杉元にとってはいつまでも守らなきゃいけない少女なんですよね。
そういう意味で、203話の変更後のセリフのほうが杉元らしいセリフになっていると思います。
アシリパさんを通して自分の子供時代を見出すということは、つまりアシリパさんを「穢れを知らない無垢な子供」として見ているということだからです。変更前のセリフではアシリパさんがあまりにも神々しい。
杉元はアシリパさんをアイヌの先頭に立たせて戦わせようというウイルク、土方とは異なる考え方だったはずです。おばあちゃんの元で狩りをして、ずっとヒンナヒンナしててほしい。今までと変わらず、アイヌとして平凡に暮らしてほしい。それが杉元の考えです。
まつり上げようとする土方、暗号解読の鍵として利用しようとする鶴見中尉から遠ざけようとする杉元が、彼女を神のような存在として捉えるのはいささかおかしい。矛盾してますよね。
アシリパさんの中に救いを求めるという一点においては変更がありませんが、それ以外の部分については変更されたんじゃないでしょうか。
甘い嘘をつく余裕もない鶴見中尉(加筆)
飛んで、211話は大きく加筆されています。
アシリパさんと鶴見中尉の初対面シーン、本誌でアシリパさんは「どんな男かは一目見ればわかる」というようなことを言っていましたが、21巻では変更されています。
一目見るとかなんというか、アシリパさんの勘に頼る必要もないほどにやべえヤツだと一目瞭然だからですね。
対面直前、宇佐美が「娘をどこに匿うのか」と問うシーンが追加されています。これによると、鶴見中尉は月寒の使われていない倉庫の地下室を利用するつもりのようです。聯隊長さえ把握していない地下室でなら、金塊を見つけるまで数年を要したとしてもアシリパを隠しておけるから、と。
つまり、陽の光も差し込まないような地下に閉じ込めておく気マンマンというわけです。
ここからすでに鶴見中尉がアイヌのことも考えて動いてくれるわけがないとわかります。アシリパさんにとって重要なのはその一点なのですが……。
さあ、対面シーンでは、ウイルクと同じ目の少女を確認した鶴見中尉が「同じ青い目だ」的なことを言ったセリフがカット。長谷川幸一として接したころのウイルク、そしてのっぺら坊になり、尾形によって狙撃され息絶えた後のウイルク。鶴見中尉が遺体の瞳の色を確認する回想シーンが追加されています。
セリフが一部カットされ、ただアシリパさんを駆逐艦へ連れていくよう指示する鶴見中尉の様子は、この後の展開を思うとつとめて冷静に振る舞おうとしているようにもとれます。
本誌ではこのあとすぐ、アシリパさんが矢に手をかけて放ち、杉元と逃走する展開になるのですが、21巻はここから大幅に加筆。
杉元と白石はアシリパさんから離され、連絡船で稚内に向かいそこで待機するよう言われます。こりゃーアシリパさんも「自分を監禁するつもりじゃん」と思いますよね。
アシリパさんは確認のため、
「鶴見中尉の考える未来にアイヌは存在しているのか?」
野田サトル「ゴールデンカムイ」21巻/集英社より
と尋ねます。
鶴見中尉は白々しい感じで「もちろんだ」と答えるのですが、信用できない。鶴見中尉は「そもそも金塊はアイヌのものだ」というアシリパさんの言葉にとうとうプッツンきます。
「そもそも和人を殺すための軍資金ではないか」と。
鶴見中尉はアシリパさんを通してウイルクを見ています。少数民族のために金塊を奪取したウイルク、キロランケ。そしてその仲間のソフィア。
アシリパさんは、軍資金として使おうと考えた一部のアイヌはもう死んでいて、これからのアイヌのことは今生きるアイヌが選べる、と言いますが、鶴見中尉にはとてもそう思えないのです。
青い目はウイルクそのものだから。この娘はいつか父親の遺志を受け継いで立ち上がるに違いないと思っているからです。(実際そのセリフが追加されています)
もうしゃべってる間、脳汁ダラダラ。その背後で、中尉の変貌ぶりに「優しい嘘はどうした?」とやや焦る月島軍曹。
アシリパさんを懐柔するために甘い嘘をつく余裕すらありません。甘い嘘とは、210話のタイトルにもなっていますが、月島軍曹や鯉登少尉らを懐柔するためについた壮大な芝居のことです。金塊につながる重要な鍵であるアシリパさんを手に入れようというのだから、それなりの甘い嘘を用意していたに違いないのですが、今の中尉には取り繕うこともできない。
この青い目に、妻と娘を殺されたのです。
月島軍曹や鯉登少尉、まだ単行本化していませんが、宇佐美など、たらし込むために多くの人間を甘い嘘でだまくらかしてきた中尉。でもそこには私情がなかった。だから淡々とこなせたんでしょうね。
中尉にとって、妻子を殺されたあの一件がどれほど動機になっているのかはわかりませんが、目的の根っこの部分を占めているような気がします。スパイをしていた鶴見中尉には、妻子の死を悲しむことすら許されなかった。これは中央から離反する最初の動機になったのでは?
憎しみの対象を目の前にして、脳汁が止まらない。笑いながら脳汁をボタボタだらだらと流す中尉に、部下たちもドン引きです。特に菊田さん、「この人マジでやばい」って顔してる……。あの宇佐美ですら冷や汗たらして動揺してますからね。
そういうわけで、アシリパさんが逃げるのも当然、と思える中尉のヤバいシーンが追加されたのでした。
みんなが動揺する中冷静に、逃げるために矢に手をかけられるアシリパさんってやっぱりすごい。
追記※中尉が見つけた銃弾について
↑ではあっさり、「妻子を殺したのはウイルク」とだけまとめましたが、昨日コメントいただいたのでその点についてここでも追記しておきます。
加筆部分の、中尉の回想シーンにて、オリガの亡骸を抱く中尉が銃弾を手に持つコマがあります。
あの銃弾の小ささからみて、拳銃のものです。あのとき拳銃を手にしていたのは秘密警察と、ウイルクでした。
もちろん秘密警察がやった可能性だって十分ありますが、これまでのウイルクの描かれ方からして、撃ったのはウイルクだろうと思います。
ソフィアがアシリパさんと対面したとき、ウイルクの名前の由来について話しました。「ウイルク」とはすなわち狼のこと。幼いウイルクは、群れのために怪我をした狼を見捨てて去る狼たちを見ました。狼は合理的で、無駄な優しさはそぎ落とされた動物です。
ウイルクはそんな狼にあこがれたし、実際大人になって、狼のように生きました。負傷した仲間を連れて逃げていたとき、ウイルクは数人の仲間を守るため、その負傷した仲間を手にかけたのです。ソフィアやその他の仲間は誰もが迷うような場面で、ウイルクは最短で「多数」を救う正解を導き出したのです。中途半端な優しさは仲間を危険にさらしてしまう。
ウイルクとはそういう性質をもった人物でした。だから、フィーナが手配書を見たことを知ると、秘密警察の襲撃のどさくさに紛れてフィーナを撃ったのだと思います。オリガまで殺す必要はなかったかもしれませんが、フィーナが抱くオリガを避けるのは難しかったのでしょう。
ソフィアは「自分が殺してしまった」と誰よりも動揺して罪の意識にさいなまれ、ウイルクたちと日本へ渡ることを断念しました。
ウイルクに罪悪感がなかったかどうか、そこのところはわかりませんが(いずれ描いてほしいとは思いますが)、自分たちの目的のためと考え、躊躇なく行動に出たのでしょう。
中尉はウイルクたちが指名手配されていたことは知っていました。それをフィーナが知ってしまったことも、彼女から聞かされて知っていました。だから妻子を逃がそうとしていたのです。
その状況から考えて、彼らの誰かがやったのだとすぐに思い至ったでしょうね。銃弾をみて、3人のうち誰が撃ったのかがわかったわけです。
もちろんマタギ増毛
あまり触れませんが、もちろんゲンジロ胸毛マシマシはあります。なんせ今回表紙ですしね。チカパシとの別れは切ない。
コメント
初めまして。
いつも読ませて貰っております。
鶴見とアシリパが対峙するシーンで、
鶴見の過去のフラッシュバックというか
撃たれた赤ちゃんから取り出した弾丸を見つける…という一コマがあると思うんですが
あの小さな弾丸って、
本当にソフィアが誤って撃ったものなんでしょうか?
(当方、銃に詳しくないため…)
ショットガン的な銃にしては小さい気がしたんですよね。
キロちゃんがガガガと撃ってたのとも違うと思うし、
だとしたら、ウイルクの銃?
もしかして、鶴見の妻子は
ドサクサに紛れて意図的に殺されたのでは?
それを鶴見は気づいたんではないでしょうか。。
…徒然とすみませんでした。
コメントありがとうございます。
こんなグダグダな感想をお読みいただいてありがとうございます……!
あの銃弾は、ソフィアが撃ったものではないとわかりましたね。
あのサイズ、キロランケは当然違います。あらかじめ弾のサイズは描かれていました。そしてソフィアが使っていた銃もおそらく小銃で、弾はもっと大きいものです。
あの小さな銃弾を見る限り、拳銃のものでしょう。あの場で拳銃を使っていたのは秘密警察、そしてウイルクです。
鶴見中尉はウイルクが撃ったと考えたのでしょうね。
倒れたフィーナとオリガを見て誰よりも取り乱し、罪の意識を感じていたのはソフィアですが……
いつだったか、ソフィアがこんなことを言っていました。
ウイルクとは狼の意だと。狼は群れで生きるため、余分な優しさが削ぎ落とされ、合理的な動物。
ウイルク自身も、誰もが動揺して迷い、足踏みしてしまうような場面で、迷うことなく真っ直ぐ正解にたどり着くのだと。彼は仲間のために、負傷した仲間をひとり手にかけています。そういう男なのだと。
妻子の件も、手配書を見られてしまったことに気づき、どさくさに紛れて撃ったのだと思います。秘密警察が殺した線も捨てきれませんが、あのウイルクの性質から考えるに、十中八九ウイルクがやったと見ていいと思います。
返信ありがとうございます!(興奮)
妻子を撃ったのは、やはりウイルクなのでしょうね。
私事ですがうちにも赤子がいるので、
関連のシーンとてもつらい!
これからも更新楽しみにしております。
いいえ〜!こちらこそ返信いただいてありがとうございます(こちらも興奮)
あの一件のあとから、アシリパ誕生日以前以後までのウイルクの心情が描かれればせめてもの救いになるかなぁと思うのですが、どうでしょうね……
今後ともよろしくお願いします。
はじめまして
本誌掲載時、加筆後の対比により描写の意味するところをより明瞭に理解することができました、ありがとうございます!
次の新刊並びにこちらのブログ更新を心待ちにしております。
はじめまして。
コメントありがとうございます。
一読者の解釈に過ぎませんが、そう言っていただけると嬉しいです。